不妊治療には大きく分けて以下の3種類の診療方法があります。
・保険診療
・自由診療(自費)
・先進医療(自費)
今回は保険診療/自由診療/先進医療で行う不妊治療の内容についてご紹介します。
目次
◎保険診療でもしっかりした不妊治療が受けられます
これまで、不妊治療は不妊検査と不妊の原因になる疾患の治療のみ保険が適用されていました。
上記の理由から保険で行える治療が限られていた不妊治療ですが、2022年4月の診療報酬改定により、人工授精などの「一般不妊治療」と体外受精・顕微授精・男性への不妊治療などの「生殖補助医療(ART)」にも条件付きで保険が適用されることになり、保険で受けられる不妊治療の幅が広がりました。
{保険診療のメリット}
・自由診療や先進医療と比べ、比較的安価に基本となる不妊治療を受けられる
[保険診療の不妊治療の内容]
・不妊検査
・不妊の原因になる疾患の治療
・一般不妊治療(タイミング法、人工授精)
・生殖補助医療(ART)(体外受精、顕微授精)
不妊検査
超音波検査、卵管検査、ホルモン検査、AMH検査 など
一般不妊治療
・タイミング法
妊娠しやすい時期を超音波検査等で予測し、排卵のタイミングに合わせて性交渉を持つ方法です。
・人工授精
男性から採取した精液を胚培養士が調整して直接、子宮の中に注入し、妊娠を図る方法です。
生殖補助医療(ART)
・体外受精
精液から取り出した精子を卵子に受精させ、子宮に戻して妊娠を図る方法です。精子と卵子を培養液に入れ、受精卵を育ててから子宮に戻します(育てた受精卵を子宮に戻すことを「胚移植」と呼びます)。
・顕微授精
細い針を使い、精子を直接卵子の中に入れて受精させる方法です。精子の数が少なく体外受精がむずかしい場合や体外受精で受精卵を得られなかった場合は顕微授精が選択肢となります。体外受精と同様、受精卵を培養液に入れて育ててから子宮に戻します。
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保険診療でも上記のように幅広く、しっかりと不妊治療を行えます。
「保険だから効果が薄い」「自費だから効果が高い」などの“費用の安さ/高さ”は不妊治療の質を決めるものではありません。
◎不妊治療の保険適用条件
診療報酬改定により選択肢の幅が広がった不妊治療ですが、保険適用には以下の条件を満たす必要があります。条件を満たさない場合には保険は適用できず、自由診療(自費)となります。
[不妊治療の保険適用条件]
<年齢条件>
不妊治療開始時の女性の年齢が43歳未満(=42歳以下 43歳以上は保険適用外)であること。
(男性には年齢制限がありません)
<回数条件>
・体外受精および顕微授精の保険適用条件
1子につき、不妊治療開始時の女性の年齢が40歳未満の場合は体外受精と顕微授精を合わせて最大6回まで保険適用(7回目からは自由診療)。
1子につき、不妊治療開始時の女性の年齢が40歳~42歳の場合は体外受精と顕微授精を合わせて最大3回まで保険適用(4回目からは自由診療)。
※いずれも1子につきの条件のため、2人目のお子さまの妊活を行う場合は年齢条件をクリアしていれば体外受精と顕微授精の回数はリセットされます。
<婚姻条件>
法律婚または事実婚であること。
法律婚は戸籍謄本と婚姻届(取得より3ヶ月以内の物)、事実婚は同居を証明する住民票(妻(未届)夫(未届)と記載された物)を提出すること。
・不妊治療を受けるクリニックにて、妻と夫の双方が治療同意書に署名すること。
◎ご希望に合わせ、自由診療をご選択いただけます
自由診療とは、国の公的医療保険(保険診療)が適用されない医療技術や薬剤による治療です。
自由診療は保険不適用のため、治療費は全額自己負担(自費)となります。
保険診療でもしっかりした不妊治療を行えますが、以下のような場合は患者様のご希望に合わせて各種の自由診療(自費診療)をご選択いただけます。
・保険診療で治療の効果がでなかった方
・年齢により、妊娠可能な期間が残り少ない方
・不妊治療の効果をより高めたい方
・さまざまな治療法や先進技術を試してみたい方
{自由診療のメリット}
・保険診療ではできない高度な医療技術や精密機器を用いて診療を行える
・保険診療と比べ、検査方法や診療で使用できる機器・器材のバリエーションが豊富
[自由診療の不妊治療の内容]
・凍結精子使用
・着床前胚染色体異数性検査(PGT-A)
・PFC-FD療法(血小板由来因子濃縮物-凍結乾燥)
・GM-CSF(顆粒球マクロファージコロニー刺激因子)を用いた胚移植
・ペントキシフィリン処理
・凍結精子使用
凍結保存した精子を使用する方法です。良好な状態の精子を凍結保存することで、治療の際に安定して精子を使えるようになります。
・着床前胚染色体異数性検査(PGT-A)
PGT-Aは、反復不成功や反復流産の方を対象としており、移植前の受精卵(胚)から一部の細胞を採取し、染色体異数性の有無などを調べる検査です。結果が正常核型であった胚を移植することで妊娠率の向上、流産率の低下が期待されます。
当院は、PGT-Aの実施施設として日本産科婦人科学会の施設承認を得ていますので、PGT-Aの実施が可能です。ただし、PGT-Aを希望される場合、採卵や体外受精、PGT-Aなどの治療費用が全て自費となります。また、保険で採卵した胚は検査できません。
・PFC-FD療法(血小板由来因子濃縮物-凍結乾燥)
PFC-FD療法とは、ご自身の血液を採取し、多血小板血漿(PRP)から「成長因子」のみを抽出・濃縮、無細胞化し、凍結乾燥したものを子宮内や卵巣内に注入する方法です。胚移植前に子宮内に注入することで、子宮内膜が活性化され受精卵が着床しやすい環境になることが期待されます。さらに卵巣に注入することで良い卵子が採れることが期待されます。
・GM-CSF(顆粒球マクロファージコロニー刺激因子)を用いた胚移植
GM-CSFは主に女性の子宮内膜や胚盤胞などで分泌されるサイトカインの一種で細胞の増殖や分化を促進します。受胎時の生殖官内の環境が再現されるため、妊娠継続率が改善したという報告があります。
当院では胚移植時にGM-CSF含有培養液を選択可能です。ただし、移植周期にかかる費用は自費となります。
◎混合診療について
保険診療と自由診療を併用することを「混合診療」と呼びます。日本の公的保険制度では保険診療と自由診療を併用した混合診療を行った場合は保険は適用されず自由診療扱いとなり、すべての診療費が自費になります。
保険診療と自由診療を併用する場合の費用イメージ
保険診療+自由診療=すべての診察、検査、治療が自費になる(10割負担)
◎高度な医療技術を用いた先進性の高い診療を受けられます
先進医療とは、高度な医療技術により大学や研究機関で一定の成果報告を挙げ、厚生労働大臣から承認を受けた診療を指します。
先進医療は保険不適用のため、治療費は全額自己負担(自費)となります。
{先進医療のメリット}
・先進性の高い医療技術や精密機器を用いた診療を受けられる
・これまでになかった医療技術により、治療効果を高められる可能性がある(※)
(※)先進医療は治療効果を約束するものではありません。患者様や症状によっては
先進医療の効果が見られないケースがあります。
[先進医療の不妊治療の内容]
・子宮内フローラ検査
・ERPeak
・PICSI(ピクシー)
・タイムラプス培養
・子宮内フローラ検査
次世代シークエンサー(塩基配列高速解読装置)を使い、子宮内の細菌が正常に機能しているか調べる検査です。
・ERPeak
次世代シークエンサーを使って子宮内の遺伝子を解析し、受精卵が子宮に着床できる時期を調べる検査です。
・PICSI(ピクシー)
ヒアルロン酸を含んだ培養液を用い、成熟した精子を選別する技術です。受精率・妊娠率を上げ、流産率を低下させる効果を期待できます。
PICSIについてはこちらの記事をご参照ください。
・タイムラプス培養
二酸化炭素濃度や酸素濃度、温度をお母さんのお腹の中(子宮)と同じ状態に整えたインキュベーター培養器を用い、受精卵を培養する方法です。インキュベーターによって安定した培養環境の中で受精卵の発育過程を連続画像(タイムラプス画像)で観察することで受精の判断材料となる受精卵の前核状態を精密に確認できます。
タイムラプス培養(タイムラプスインキュベーター)についてはこちらの記事をご参照ください。
◎保険診療と先進医療を併用した診療について
先進医療は国が定める評価療養に該当します。保険診療と先進医療を併用した場合は診察料や検査料(保険診療の検査)、投薬料など、先進医療以外の診療項目は保険を適用可能です。先進医療分にかかる費用は自費となります。
保険診療と先進医療を併用した不妊治療の費用イメージ
保険診療+先進医療=保険診療費(3割負担)+自費(10割負担)(先進医療分)
妊活を成功させるためには、患者様の身体の状態や年齢に合った不妊治療を行うことが大切です。
保険診療をはじめとして、治療の効果を高めたい方は自由診療および先進医療をお選びいただけます。
「保険・自費・先進医療、どのように選択できるのかわからない」
「不妊治療の内容について詳しく知りたい」
など、不妊治療に関するお悩み、ご質問がある方は当院までご相談ください。